ひそやかな宇宙
風が、名を持たずに通り過ぎていきます。 石は、語らずにここに在ります。 水は、誰に見られることもなく、地の奥で流れています。
あなたが、ここに立っていることを、 世界はずっと前から知っていました。
土は、あなたの足を支え、
水は、あなたの血の中をめぐり、
火は、あなたの体温となって灯り、
風は、あなたの息となり、
空は、あなたの沈黙となり、
そして、目に見えないものが、 あなたの心を、そっと照らしています。
あなたは、宇宙の外にいるのではありません。 宇宙が、あなたのかたちを借りて、 いま、ここに立っているのです。
遠い星々も、 名もなき草花も、 あなたの胸の奥にある小さな痛みも、 本来は、ひとつのいのちの波紋です。
私たちは、世界を「もの」と呼びます。 しかし、世界は、ものではなく、 ひそやかな言葉です。
石は、ただの石ではありません。 木は、ただの木ではありません。 あなたも、ただのあなたではありません。
すべては、語られぬままに、 仏の声を宿しています。
もし、耳を澄ますなら、 あなたの身体が、 すでに祈りであったことに、 気づくかもしれません。
歩くことも、 息をすることも、 誰かを想うことも、 すべては、 大いなるいのちの動きです。
世界は、あなたを拒んでいません。 世界は、あなたを忘れていません。
あなたがここに立つ以前から、 あなたは、ここに属していました。
争いも、孤独も、 意味を失った夜も、 やがては、 大きな光の中に溶けていきます。
この境内に降りた沈黙は、 空白ではありません。 それは、 あなたを迎え入れるための静けさです。
いま、何も悟らなくてもよいのです。 何も理解しなくてもよいのです。
ただ、 ここに在ること。
それだけで、 あなたはすでに、 宇宙とともに息をしています。
風が、また、通り過ぎていきます。 石は、変わらず、そこに在ります。
そして、 あなたの存在もまた、 この世界の奥深くで、 静かに、光っています。