変身する人間と月の記憶
月影に 己を忘れ 己を得る
風が変わる 人もまた 知らぬ声を持つ
満ちる時 欠ける時 心もまた かたちを変える
人間という生き物は、どこか不可解です。昨日までの姿からは想像できないほど、ある日突然、突拍子もない行動をとることがあります。まるで眠っていた何かが目を覚まし、心の奥底から別の力が立ち現れてくるかのようです。
この「変身」は、人類が古くから物語や伝説で語り継いできたテーマでもあります。月の満ち欠けに合わせて姿を変える狼男、季節の変わり目に異界と交わる人々――自然のリズムと人間の深層心理は、どこかで響き合っています。
その響きの中に、「人間」という種がもつ特有のふるまい――超越やトランス・パーソナルな瞬間――があるのかもしれません。
私たちは、ただ「一定の存在」として生きているのではなく、変わり続ける存在なのです。むしろ「変わらない」ことの方が不自然かもしれません。
変身することは、不安でもあり、同時に可能性でもあります。闇の夜に月が昇るように、あるいは枯葉の枝に芽が吹き出るように、私たちもまた、いつどこで新しい自分を現すか分からない。
不可解さの中にこそ、人間の尊さと面白さが息づいているのでしょう。